
神聖ローマ帝国と聞いても、花のイメージってあまりピンと来ないかもしれません。でも実は、帝国の歴史や文化、貴族社会の中には、深い象徴性をもつ「花たち」がしっかりと息づいていたんです。
この記事では、神聖ローマ帝国にとって“国花的な役割”を果たした象徴的な花を3つに絞って紹介。それぞれの花が、どんな意味をもって皇帝や貴族たちに重宝されたのか、そしてそれが帝国の理念や美意識とどうつながっていたのか、わかりやすくかみ砕いて解説します!
出典:Hans BennによるPixabayからの画像からの画像より
神聖ローマ帝国にとって、バラは、愛と権威、そして聖母マリアの象徴でした。
バラはキリスト教世界全体で聖母マリアと深く結びついた花。神聖ローマ帝国では「神の恩寵を受けた皇帝」というイメージを補強するため、儀式や礼拝堂の装飾、紋章のモチーフにも使われました。とくに白バラは「純潔」「無垢」の象徴として重要視されていたのです。
中世から近世にかけて、貴族たちは庭園を作り、バラの栽培に熱を入れました。バラ園のある宮殿は、単なる贅沢を越え、統治者の文化的洗練や正統性を示す場だったわけです。ルネサンス期には王権のロマンチックな正当性を表現する小道具にもなりました。
神聖ローマ帝国にとって、ユリは、純潔・王権・信仰の象徴三位一体の花でした。
ユリはカトリック世界における王権と聖職の象徴。とくに白ユリは「純粋性」「神への献身」を示し、神聖ローマ帝国の皇帝が「神に選ばれた支配者」であることを視覚的に表現する花として用いられました。聖職者のミトラ(冠帽)や祭服の刺繍にもよく登場します。
ユリは王家の紋章モチーフにも頻出しました。たとえば、帝国内の諸侯や貴族の紋章では百合の花をあしらったデザインが珍しくなく、神の加護のもとにあることを誇示するための装飾として定番だったのです。教会のステンドグラスやフレスコ画にも多く見られました。
神聖ローマ帝国にとって、アザミ(ディスティル)は、苦難・誇り・防御を象徴する“異色の花”でした。
アザミは一見すると地味で痛そうな花ですが、じつは誇りと抵抗の象徴。神聖ローマ帝国の中でも、特にドイツ系諸侯の間でアザミは強いシンボル性を持っていました。困難な状況でも信仰と誇りを保ち続ける──そんな強い精神性の象徴として、大切にされていたんですね。
アザミは聖母や聖人の受難と関連づけられることもあれば、貴族のタペストリーや衣服の意匠に使われることもありました。つまり「美しさ」と「痛み」を同時に背負った花であり、帝国という複雑で矛盾した存在そのものを投影できる存在だったとも言えるのです。